大判例

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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)836号 判決

原告所有の本件土地について根抵当権設定登記、所有権移転請求権保全仮登記、並びに賃借権設定登記がそれぞれ経由されていることは当事者間に争いがない。原告は、右各登記は何れも実体関係を欠く無効のものであると主張するので考えるのに、証拠を綜合すると一応次のような事情を窺うことができる。

一、昭和三十二年一月末頃東京都杉並区下高井戸において米穀販売業を営む訴外柏木常三郎のところへ背丈五尺二寸位年令三十才位の男が訪れ、「原告に依頼されて池袋の方の土地を買うことになつたが、印鑑を紛失したので杉並区役所下高永福出張所に改印届に行つたところ、連署者は他区の者ではいけない、米屋さんが常時連署するから近くの米屋に行つて頼んで印を貰つて来て呉れといわれた。」と申し向け、原告名義の委任状(その書面には代理人の氏名は青木昭二と書いてあつた)を見せたので、右柏木はそれ以上確かめずに原告名義印鑑登録変更申請書(いわゆる改印届)に保証人として連署してやつた。

二、昭和三十二年一月三十日に原告名義の右印鑑登録変更申請書は杉並区役所下高永福出張所において受理され、原告の印鑑登録は変更された。

三、同年一月三十一日原告の弟である青木昭二と称する者が金融業を営む被告方事務所に来て、登記簿謄本を示し「この物件で二十五、六万都合してくれないか」と申し込んだが、被告方使用人山本より「一応調査して間違いないなら貸すが、それには土地の権利証、印鑑証明も必要であるし、また最終的には本人に会わなければ貸すわけにいかない」と説明され、翌二月一日右昭二と山本は現地へ行き、昭二の指示する目的物たる土地を見たが、右土地は更地となつており、なお昭二から「原告の家はこの次の次のこういう家だ。」といわれて、山本は右物件が間違いないものと信用するに至り、またその翌日の二月二日被告と山本が右昭二とともに右土地を検分したとき被告らが本人の家へ行こうとしたところ、昭二から「奥さんに内緒だから会うとまづい、いずれ本人に会わせるから。」と申し向けられて、被告らはそのままこれを信用し、原告についてその自宅まで行つてこれを確かめることをしなかつた。

四、一方同年一月三十一日頃東京法務局杉並出張所前に事務所をおく司法書士の訴外中山嘉市のところに原告本人と称する者が「権利証がないが抵当権設定登記をするにはどうすればよいか。」と問い合わせて来たので、右中山は保証書によつても登記ができる旨を説明した上、その者の依頼によつてその印鑑証明書(前記登録変更にかかるもの)の提示を受け、それのみによつて右中山及びその妻中山秀子において登記義務者の人違いないことを保証する旨の保証書を作成してやつた。

右昭二なる者は同年二月二日被告方において「権利証は二、三年前に焼失した。」といつて右保証書を前記山本らに示した。

五、同年二月四日右昭二なる者が原告本人であると名乗る者を伴つて被告方に来たので、被告方では以上の経緯により間違いないものと信用してこれに対し金員を貸与することを決定し、原告名義の根抵当権設定契約書、委任状その他の書類に右本人の署名を得たのち、即日右昭二と山本が右中山司法書士のもとに赴き原告名義で本件各登記申請手続を依頼し、同人においてその申請手続をなして本件各登記がなされた。右登記手続完了後被告において原告の代理人と称する右昭二に金員を交付した。

ところで証拠によれば、前記のように中山司法書士事務所もしくは被告方事務所に原告本人であると称して来た人物は本件原告本人とは全く別人であり、原告として前示のような各所為をしたことはないこと、本件土地は更地ではなく地上建物が存在し、また原告の手もとには本件土地の権利証及び紛失したものと称せられた本来の印鑑が存在すること、及び原告青木為吉の弟には青木昭二なる者は存在せず、原告が斯様な者にその印鑑の登記変更の申請その他金員借用等の行為をなすことを依頼したことはないことを認めることができる。

してみると本件各登記のなされるに至つた原因である原被告間の本件土地についての根抵当権設定契約、代物弁済契約及び賃貸借契約は何れも原告の意思に基づかないでなされたもので無効のものとするほかないから、右各登記も実質上の権利関係を欠如することに帰し、従つて無効のものといわなければならないとしてこれら各登記の抹消登記手続を求める原告の請求を許容した。

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